2013年9月29日日曜日

EVERY GOOD BOY DESERVES FAVOUR ―童夢 ( THE MOODY BLUES )

EVERY GOOD BOY DESERVES FAVOUR-童夢 ( THE MOODY BLUES ) / 1971年1月発売




THE MOODY BLUES は1964年にデビューしたイギリスのProgressive Rock バンドで 世代的にはBEATLESやTHE ROLLING STONES, THE WHO などと ほとんど変わらずロック黎明期に誕生したバンドの一つです。
バンドは John Lodge とJustin Hayward が加入してからメロトロンやシンセサイザーなどの電子楽器を駆使してProgressive な色彩をいっそう強めました。1967年発表の2nd アルバム「DAYS OF FUTURE PAST」では 1960年代の段階でオーケストラとの共演を行って新しいロックのスタイルを築き上げるなど Progressive Rock というジャンルを生み出した草分け的バンドの一つであったと言えます。その後は1968年「IN SEARCH OF THE LOST CHORD―失われたコードを求めて」、1969年「ON THRESHOLD OF A DREAM―夢幻」「TO OUR CHILDREN'S CHILDREN'S CHILDREN―子供たちの子供たちの子供たちへ」といったほとんどのアルバムが英米で大ヒットを記録し、PINK FLOYD, KING CRIMSON, YES, EMERSON LAKE & PALMERなどと共に1960~70年代のProgressive Rock Movement を支えたとされています。かつて LED ZEPPELIN のJimmy Pageは本当にProgressive なバンドはPINK FLOYD と THE MOODY BLUES だけだと述べています。

このような経歴をもつ彼らが1971年に発表したのが「EVERY GOOD BOY DESERVES FAVOUR―童夢」でした。それまでの彼らのアルバムは歌詞に重点が置かれていたため 日本人には理解されずあまり評価されませんでした。しかし このアルバムでは音の構成やメロディーも重視しているので、日本人にもわかりやすくなり、その結果 日本ではこのアルバムから彼らの評価が急に高まりました。

このアルバムは神秘的なジャケットが実に素晴らしく、壁に飾りたくなってしまいます。先のIN THE COURT OF THE CRIMSON KING のジャケットと同じくロックの歴史に残るジャケットと言えるでしょう。
このアルバムはProgressive Rock の世界では5本の指に入る大傑作だと断言できます。私も何回聴いたか覚えていませんが、不思議なことに何回聴いても飽きのこないアルバムです。アルバムの邦題「童夢」は原題の直訳ではないのですが、ジャケットの雰囲気や曲の印象を実に良く表している名訳と言えます。このアルバムは彼らの最高傑作と言われているだけに 捨て曲なしで どの曲も牧歌的で美しいコーラスとメロトロンに包まれた荘厳な世界を創り出しています。

1 曲目のProcession はシンセサイザーのフレーズで始まる いかにもProgressive Rock と言える曲です。「Desolation」「Creation」「Communication」の3 語のみの歌詞でシタールやメロトロンを使って荘厳な雰囲気を出し、この3 語を使ってこのアルバムのメッセージを聴く人に投げかけているようです。2 曲目の The Story in Your Eyes はこのアルバムの中で最もメロディアスで素晴らしい曲ですが、イントロの distortion の効いたギター・リフを聴くとProgressive Rock というよりノリのよいスピード感のあるClassic Rock と言えるでしょう。中程でのメロトロンによるコーラス、オーケストレーションが実に壮大で最大の山場を作っています。また途中に入るギター・ソロも素晴らしい出来です。
「After You Came」「Emily's Song」「One More Time to Live」なども素晴らしい曲で、なかでも「Emily's Song」はメロトロンのオーケストレーションが中心の浮遊感のある心休まるフレーズが聴ける曲です。
最後の「My Song」は「童夢」というタイトルどうりの子供の心が捉えた風景をそのまま具体化した様な物語性を持つ名曲です。キーボード、フルート、メロトロンなどによってどこか郷愁を感じさせるメロディーが静かに奏でられたかと思うとIN THE COURT OF THE CRIMSON KING の様にドラムの突然の盛り上がりと共にメロトロンによる壮大な交響曲の展開となり 「これこそProgressive Rock!」 と納得させられる 本アルバム中、最大のスケールを感じさせる曲です。

KING CRIMSON がそうであったようにTHE MOODY BLUES も メロトロンなどの楽器を用いた高度な演奏テクニックに頼るばかりでなく、歌詞に重みをおき、難解な歌詞で歌の心を表現しようとしていると言えますが、これがこの時代のProgressive Rock バンドの特徴でしょう。

2013年5月18日土曜日

IN THE COURT OF THE CRIMSON KING ( KING CRIMSON )





IN THE COURT OF THE CRIMSON KING ( KING CRIMSON ) / 1969年10月発売


KING CRIMSON  ( 1969 年 )





これまで紹介して来たアルバムは 1960年代後半から1970年代前半にかけて ブールスを基盤とし、鳥肌の立つようなギター・リフを武器に 大観衆のいるライブ会場で大音量で押しまくる Classic Rock という分類に入る音楽でした。その最たるものが CREAM であり、その後 世界を制覇した LED ZEPPELIN でした。

ところが THE BEATLES が アルバム ABBEY ROAD をリリースした1960年代末期には 英国の片隅でサイケデリック・ムーブメントの中からプログレッシブ・ロック( Progressive Rock ) と言われる独創的な音楽を追求する先進的な MOODY BLUES, PINK FLOYD, KING CRIMSON といったバンドが生まれました。これからしばらく これらのバンドが生み出した傑作アルバムを紹介しましょう。なかでも クラシックやジャズの要素を巧みにとりいれ、深遠なProgressive Rock の世界を構築した KING CRIMSON はデビュー・アルバム「In The Court Of The Crimson King」で世間を唸らせ確固たる地位を確立したばかりでなく、その後のロック史にも多大な影響を与えました。
これらのバンドの影響でProgressive Rock は70年代前半に隆盛を極め、ジャズ、クラシック、ブルースとすべてを取り入れて 高尚な主題と卓越したテクニック、難解で知的な歌詞で 労働階級のものとされていたロックを上流階級まで広める働きをしました。

KING CRIMSON というバンドの歴史はかなり長く、ギターのRobert Fripp がリーダーで不動のメンバーでした。彼は概念を表現する方法として音楽を選び、思想を音で具体化したとされる音楽家と言われています。このバンドの歴史は1969年からRobert Fripp が音楽界からの引退を宣言した2011年までとされており、この間にバンドに在籍したメンバーは実に19人にものぼります。このためアルバムを聴き比べてみると 音楽性が多様でとても同じバンドの作品とは思えません。また在籍したメンバーも素晴らしい人が多く、その後 Emerson Lake & Palmer や YES といった著名なバンドも生まれました。

デビュー・アルバムの「In The Court Of The Crimson King」は ギターのRobert Fripp, ボーカルとベースのGreg Lake, キーボードやサックスをはじめとするマルチ・プレーヤーで主に作曲担当のIan McDonald, ドラムのMichael Giles, そして作詞担当のPete Sinfield というメンバーで作られました。しかし この黄金のメンバーで作られたのはこの1枚のみでした。
このアルバムはロックの歴史に残る名盤だと断言できますが、この他のアルバムは難解な曲や詞が多く、私にはよく理解できないし、良いとも思えません。

このアルバムの特徴はまず印象に残るジャケットでしょう。最近このような手の込んだジャケットを見ることが少なくなったのは残念です。
音楽的な一番の特徴は Ian McDonald によりメロトロンが導入され、オーケストラの様な壮大な雰囲気や時には心地よい浮遊感を創り出していることです。またサックスやフルートといった当時はあまりロック・バンドで使われることの多くなかった楽器を導入し、新たな音楽を創造したのも彼の功績です。さらに このアルバムのみの参加で その後 Emerson Lake & Palmer を結成したGreg Lake の深みのあるボーカルとベースの腕も見逃せない点です。
作詞専門という特殊なメンバーであるPete Sinfield の功績も大です。彼の詞はかなり難解ですが、ロックミュージックに壮大なスケールの世界観を持ちこみ バンドの方向性を決定付けたということで評価されています。

①21st Century Schizoid Man (21世紀の精神異常者)

異常者が正常で正常者が異常とみなされる未来社会を主題とした曲で ギターのリフを前面に押し出し、ボーカルにもdistortion をかけたヘビーな曲で この後に続く壮大な展開の曲を引き立たせるのに役立っています。ドラムのMichael Giles はジャズ畑の出身で中ほどで聴かれる彼のすさまじいプレイはまさにジャズ・ドラムです。

②I Talk To The Wind(風に語りて)

一転してメロディー・ラインの美しい曲で フルートを前面に出した英国のトラッドな雰囲気です。異常な未来社会において 話し相手は風しかいないと歌っています。

③Epitaph(墓碑銘)

前2曲で絶望的世界を歌いつつ、この曲で未来への光を歌っています。やや暗い曲調ですが、日本人好みの音階を含んでおり このアルバムの中では最も受け入れやすい曲です。メロトロンによるオーケストレーションが壮大な雰囲気を創り出しており、メロトロンを使った作品の中で最高傑作とされています。
作詞面では「Confusion will be my epitaph-混乱こそ我が墓碑銘」という一節はロック史に残るものとされています。
Greg Lake の声量ある澄み切ったボーカルもこの作品を素晴らしいものにするのに貢献しています。

④Moon Child

美しい曲で後半の8分間に眠気を誘う浮遊感のある演奏が延々と続きます。それが突然終わって最期の曲が始まる演出がアルバムの締めの曲を盛り上げるのになんともすばらしく役立っています。

⑤The Court Of The Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)

同名のアルバムの締めの曲として最高の出来の曲です。前曲が終わった後、突然のドラムのフィルインで始まり、メロトロンによる壮大なオーケストレーションが幕を開けます。ギター、ボーカルと展開して 静と動が繰り返し、ストーリーが展開して行きます。メロトロンによるオーケストレーションの音圧はすさまじく、この曲を限りなく壮大なものにしています。


このアルバムは圧倒的な演奏力、構成力、作曲力がうまくバランスされ、最初から最後まで一気に聴けてしまいます。
BS-TBS の番組「Song To Soul ~永遠の一曲」でこのアルバムが取り上げられており、Ian McDonald と Pete Sinfield が KING CRIMSON 誕生前後の状況やこのアルバム制作の秘話を語ってくれています。今後も再放送があるものと思います。

(訳詞)

EPITAPH

The wall on which the prophets wrote
Is cracking at the seams
Upon the instruments of death
The sunlight brightly gleams

When every man is torn apart
With nightmares and with dreams
Will no one lay the laurel wreath
When silence drowns the screams?

Confusion will be my epitaph
As I crawl a cracked and broken path
If we make it we can all sit back and laugh
But I fear tomorrow I'll be crying
Yes, I fear tomorrow I'll be crying

Between the iron gates of fate
The seeds of time were sown
And watered by the deeds of those
Who know and who are known

Knowledge is a deadly friend
When no one sets the rules
The fate of all mankind I see
Is in the hands of fools

Confusion will be my epitaph
As I crawl a cracked and broken path
If we make it we can all sit back and laugh
But I fear tomorrow I'll be crying
Yes, I fear tomorrow I'll be crying

予言をしたためた壁は
つなぎ目から崩れ落ち
死をもたらす武器の上
陽光は降り注ぐ
夢と悪夢に引き裂かれ
静寂が叫びを押し殺すとき
栄冠などありはしない

混乱こそ我が墓碑銘
ひび割れた小道を私は這う
なんとかなるというなら
笑って傍観してもいよう
だが私は明日を恐れ、泣き叫ぶ
明日を恐れ、泣き、叫ぶのだ

宿命の扉の狭間に
時間の種子は播かれ
知るものと知られるものが
それに水を撒く
だが掟をもたらす者なくば
知識とは厄災の友
人類の運命は愚か者の手中にある

混乱こそ我が墓碑銘
私は明日を恐れ、泣き叫ぶ
明日を恐れ、泣き、叫ぶのだ





2013年3月8日金曜日

Alvin Lee ( TEN YEARS AFTER ) 死去




 TEN YEARS AFTER のギタリストであった Alvin Lee が 2013年3月6日に死去したというニュースが伝わってきました。2011年2月の Gary Moore と たて続けに惜しいギタリストを亡くしました。

以下、CNNのニュースからです。

(CNN) -- Alvin Lee, the speed-fingered British guitarist who lit up Woodstock with a monumental 11-minute version of his song "I'm Going Home," has died, according to his website. He was 68.
"With great sadness, we have to announce that Alvin unexpectedly passed away early this morning after unforeseen complications following a routine surgical procedure," read the message on alvinlee.com. "We have lost a wonderful, much loved father and companion. The world has lost a great and truly gifted musician."
The note was signed by Lee's daughter, Jasmin, wife, Evi, and former companion Suzanne.
Lee died Wednesday.
Born in Nottingham, England, in 1944, Lee was the leader of the band Ten Years After.
His performance at Woodstock in 1969 catapulted him into the front ranks of the period's British guitar heroes, which included Eric Clapton, Jeff Beck, Jimmy Page and Pete Townshend.
In an image from the 1973 book "Rock Dreams," he and those four others are pictured in tuxedos carrying guitar cases into a building.
"Groups would play for an hour without pausing, not to be mobbed or screamed at but in hopes of an ovation," critic Nik Cohn wrote about musicians in the caption.
Despite his status as a musician, Lee never reached the critical or popular heights of his countrymen.
Ten Years After never had a Top 10 album in America, though 1971's "A Space in Time" went platinum thanks to the group's only Top 40 hit, "I'd Love to Change the World."
Lee released his latest album, "Still on the Road to Freedom," last August.

2013年2月25日月曜日

LIVE ALBUM ( GRAND FUNK RAILROAD )



LIVE ALBUM (GRAND FUNK RAILROAD ) / 1970年11月発売




雷雨のなかでの後楽園球場コンサートを伝える新聞記事(1971年7月18日)




GRAND FUNK RAILROAD ( GFR ) はアメリカが誇る、大音量が売り物のハード・ロックバンドで Mark Farner (Vo,G), Don Brewer (Ds,Vo), Mel Schacher (B) の3人からなる3ピースバンドとして 1969年にアルバム「On Time」でデビューしました。デビュー直後は LED ZEPPELIN の全米ツアーに前座として同行して知名度をぐんぐん上げたばかりでなく、ある時 そのすさまじい歌と演奏で聴衆を熱狂させてしまったために、LED ZEPPELIN のマネージャーのPeter Grant があわててステージから降ろさせたという逸話が残っています。 前座なしで延々と続く LED ZEPPELIN のコンサートはこのことがあってから始まったということです。

日本においては 初来日時の1971年7月17日に激しい雷雨の中で行われた後楽園球場コンサートはロック伝説の1つともなっています。

彼らのサウンドは 以前に紹介したブリティッシュ・ロックの王道ともいえる CREAM, LED ZEPPELIN, DEEP PURPLE と比べると 繊細さに欠け、テクニック的にも優れたものは持ち合わせているわけではありません。GFR がデビュー当時からよく比較された相手が 不幸なことに LED ZEPPELIN で、評論家からは田舎バンドとかイモバンドと散々に酷評されました。そして GFR が好きだなどと言えば ロックのわからないやつだと言われたものでした。しかし、比較された相手がロック界の頂点に君臨するLED ZEPPELIN ではパワー、テクニック、創造性のどれをとっても勝てるものではありません。さらに どこから見ても格好良いRobert Plant や Jimmy Page と短足のMark Farnerでは初めから勝負になりません。にもかかわらず、現実には バンドのパワーと大音量で前座が 主役の地位を脅かしてしまったのです。

GFRの歴史は 辣腕プロデューサーのTerry Knight と活動していた前期と Knight と決別してからの後期に分けられます。後期には大ヒットとなったWe're an American Band やThe Loco-Motion の様なヒット狙いの曲も多いのですが、私は3ピースとして活動していた前期の荒々しい、パワーに満ち溢れていた時代の曲を好みます。

ここで紹介する「LIVE ALBUM」は1970年に発売されたもので 彼らの初期の演奏が収録されています。演奏はブリティッシュ・ロックグループの様な神がかりなテクニックはありませんが、全曲にわたって Mel Schacher のブイブイ歪むベースに引きずられた重厚なサウンドが特徴です。彼は「ベースの役割は音圧をかせぐことだ」と言っており、愛用のフェンダー・ベースのピックアップをギブソンのハムバッカー・ピックアップに換えて重厚な音作りをしていたそうです。このアルバムを聴いているだけで大音量だというのがよくわかりますし、すごい音圧で音の塊がそのままぶつかってくるというロックバンドの理想的な姿を楽しむことができます。これぞアメリカン・ロックといえるライブ・アルバムです。
オープニングの「Are You Ready 」や「Paranoid」はギターはあまり目立たないもののリードを取っているかのようなベースに引きずられて重量級のサウンドが爆発する今となってはなつかしいロックバンドのスタイルを聴かせてくれます。そしてハード・ロックの古典ともなっている彼らの傑作「Heart Breaker」はアルバムからシングルカットされ、後のミュージシャンにも大きな影響を与えました。
さらに彼らの代表曲でANIMALSの名曲のカバーである「Inside Looking Out」は全く別の曲とも聴こえるくらいアレンジがすばらしく、Mark とDon のボーカルの掛け合いもなかなかよくできています。

全編を通じて Mel Schacher のベースが目立ってしまう演奏ですが、上手いとか下手とかの問題を通りこして 当時の人々(今は50歳半ばから60歳後半になっている)を熱狂させたバンドのパワーを感じ取っていただきたいと思います。21世紀になってこれほどのパワーで人々を熱狂させるバンドが誕生したでしょうか。


GRAND FUNK RAILROAD (左からDon,Mark,Mel)

2013年1月31日木曜日

BURN ( DEEP PURPLE )


BURN (DEEP PURPLE) / 1974年2月発売



 Ian Gillan (Vo) と Roger Glover (Ba) がバンドを抜け、代わりに David Coverdale (Vo) と Glenn Hughes(Ba) が加入した第3期の1枚目のアルバムです。このアルバムは IN ROCK, MACHINE HEAD, MADE IN JAPAN と並ぶ DEEP PURPLE の 4大傑作と私は考えています。バンドの中心とも言えるボーカルまで代わるというメンバーチェンジを繰り返しても 売れるアルバムが作れるというバンドも珍しいですが、それは中心メンバーであるキーボードの Jon Lord とギターの Ritchie Blackmore の類いまれな音楽的才能の連携が大きく関与していたからと思います。

順調だと思われていた第2期のDEEP PURPLE でしたが、 1973年の2度目の来日公演の頃から Ian Gillan と Ritchie Blackmore の不仲は決定的なものとなり、ついに最終公演の6月29日の後で Ian Gillan と Roger Glover が脱退してしまいました。かつて Ritchie は Gillan のボーカルについて「LED ZEPPELIN のRobert Plant のような高音域まで出せるボーカリストを探していて Gillan を加入させたが、Robert Plant との違いは Gillan がアドリブをとれないことだった」と述べています。
Ian Gillan が抜けた後のボーカルは一般から募集することになり、当時全く無名だった David Coverdale が選ばれ、第3期 DEEP PURPLE がスタートしました。Coverdale のボーカルはGillan とは全く異なり、ソウルフルあるいはブルース調で これまでのDEEP PURPLE とは異なった雰囲気をバンドに与えました。

このアルバムタイトルと同じ1曲目の Burn は彼らの Smoke On The Water と同じくらい有名で印象的なメイン・ギター・リフを持った曲で この曲だけでもこのアルバムを手に入れる価値があると思います。さらに この曲では Ian Paice のドラムが素晴らしく、IN ROCK や MACHINE HEAD では聴けなかったドラムソロのような手数の多い斬新なプレイを聴かせてくれます。もちろんギター・ソロと非常に印象に残るクラシック調のキーボード・ソロも十分に聴き応えがあり、ハード・ロックの傑作と言って良い曲です。
全8曲、十分な完成度を持った曲ばかりですが、Burn の出来があまりにも凄まじいため、残りの曲は目立たない存在となっています。しかし、7曲目の Mistreated は ギター・ソロはもちろんのことソウルフルなボーカルが素晴らしいDEEP PURPLE の代表曲の1つと言ってよいと思います。

 DEEP PURPLE の歴史の中では第2期の Ian Gillan のボーカルの印象があまりにも強かったために すでにバンドのカラーとなっており、突然現れたCoverdale のソウルフルなボーカルは それまでのファンに違和感を与えたばかりでなく、Jon Lord や Ritchie Blackmore の音楽性となじまなかった様な気がします。事実、第3期のメンバーでの作品は次作の STORMBRINGER までの2作品で、その後は ついにバンドの柱である Ritchie Blackmore がブルース調、ソウルフルな作品を好む Coverdale や Hughes と合わなくなり 脱退してしまいました。その後、バンドはメンバーチェンジを繰り返し、一時 第2期のメンバーで再結成もされましたが、長続きせず、かつての様な傑作アルバムは生み出されませんでした。第3期のDEEP PURPLEを脱退したRitchie Blackmore は RAINBOW を結成し、相変わらず頻繁なメンバーチェンジを繰り返しながらも大成功をおさめました。

2002年に第9期 DEEP PURPLE が Ian Gillan, Roger Glover を中心に ギターにSteve Morse を迎えて結成され、現在に至っています。2005年に発売されたRAPTURE OF THE DEEP というアルバムはあまり知られていませんが、昔を彷彿させる様な曲もあり、結構ノリのいい曲がそろったアルバムです。



RAPTURE OF THE DEEP(Ⅸth DEEP PURPLE) / 2005年発売