2014年8月14日木曜日

ATOM HEART MOTHER-原子心母 ( PINK FLOYD )





ATOM HEART MOTHER ( PINK FLOYD ) / 1970年10月発売




PINK FLOYD(ピンク・フロイド)は、イギリス出身のロック・バンドです。彼らの前身は 1965年、Roger Waters, Richard Wright, Nick Mason らが結成したバンドで その後 PINK FLOYD と改名し、Syd Barrett が加入してから本格的な音楽活動に入りました。しかし Syd の薬物依存によるバンド脱退後 David Gilmour が加入してからが 黄金期と言われています。
彼らはサイケデリック・ロックやブルース、フォークを織り交ぜた壮大で幻想的な独特のサウンドを創り出し、大掛かりな仕掛けでライトショーといわれる視覚と聴覚に訴えるライブを行い、哲学、政治、文学的な歌詞で世界的に人気を博しました。いわゆる Progressive Rock の代表格として扱われるバンドです。

代表作である「THE DARK SIDE OF THE MOON-狂気」は 5,000万枚、「THE WALL」は 3,000万枚、「WISH YOU WERE HERE」は 2,300万枚というセールスを記録し、2012年で総売り上げは2億3000万枚と商業的にも大成功を収め、今だに売れ続けています。

「原子心母、原題 ATOM HEART MOTHER 」は 1970年に発表された PINK FLOYD のスタジオ録音アルバムで ロンドンのあの有名なAbbey Road スタジオで録音されました。1968年に結成されたイギリスのデザイン・グループであるヒプノシス( Hipgnosis ) による牛のジャケットも有名です。このアルバムは Progressive Rock を代表する名盤とされ、全英初登場1位、全米55位を記録するなど各国でヒットしました。その要因として Syd Barrett が在籍中の彼らのアルバムはアンダーグラウンド的で難解な作品が多かったのが、彼の脱退後、 David Gilmour が加入し 分かりやすく 聴きやすい内容になったことが考えられます。
表題曲の「原子心母」は23分を超える大作で ストリングスやブラスバンド、コーラス隊などを大胆に使った作品です。原題の「ATOM HEART MOTHER」は原子力駆動の心臓ペースメーカーを体内に埋め込んだ女性の新聞記事「Nuclear drive for woman's heart 」から取られたものとされています。制作は困難を極めたため メンバー4人だけでなく Roger Waters の知人の Ron Geesin がアレンジを担当しています。アルバムにはこの曲の他にもバンドのメンバーによる書き下ろし曲と全員による共作も収録され、こちらも結構良い出来なのですが「原子心母」が大作すぎて あまり話題にならないのは残念です。
この時代 Progressive Rock 界において クラシック音楽とロックの融合を試みるのが流行で、最も成功したのが EMERSON LAKE & PALMER の「展覧会の絵」とPINK FLOYD の「原子心母」であったと言われています。

「原子心母」を初めて聴いた時の衝撃は忘れられません。最初はオーケストラの音出しのリハーサルを思わせる出だしから始まり、やがて意味もなくバイクの爆音が右チャンネルから左チャンネルへと駆け抜けた後、原子心母の美しいテーマ・メロディーをバイオリンとWright のキーボードが奏でます。この部分のキーボード演奏は実に上手く、効果的です。全編にわたり コーラスは入るものの ボーカルはありません。オーケストラ、コーラス、ギター、キーボードが入り混じって 盛り上がりを繰り返しながら 最後に壮大なフィナーレを迎えます。もうこれは現代のクラシック音楽と言ってよいかもしれません。
この作品全体を通して 重要な特徴は 聴く人の気分をリラックスさせてくれる「浮遊感」が常に感じられることです。先に紹介した KING CRIMSON の作品でも独特の浮遊感を感じることが出来ましたが、それはメロトロンという楽器によるものでした。しかし この「原子心母」で感じられる浮遊感の秘密はDavid Gilmour の巧みなギター・プレーにあります。彼は Fender Stratocaster の使い手として有名ですが、トレモロを効かせた 歪のない高音の澄み切った音は 現在の様にeffector の発達していなかった1970年当時ではStratocaster でしか出せませんでした。彼のギター・プレーはスペース感、つまり宙に浮いている様な感覚をもたらす独特のもので、さらにRichard Wright  のキーボードも加わって 誰もまねの出来ない音響空間が創り上げられました。彼らがこのアルバムで創り上げた音は後のアルバムにも引き継がれ、その後 PINK FLOYDは現在まで40年以上にわたって Progressive Rock界におけるゆるぎない地位を確立しました。

2010年の「ローリング・ストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」においてPINK FLOYD は第51位です。




PINK FLOYD ( 左から  R.Wright,  D.Gilmour,  N.Mason,  R.Waters )




ライトショーと言われた PINK FLOYD のライブ



ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト(2010年)

 1. The Beatles
 2. Bob Dylan
 3. Elvis Presley
 4. The Rolling Stones
 5. Chuck Berry
 6. Jimi Hendrix
 7. James Brown
 8. Little Richard
 9. Aretha Franklin
 10. Ray Charles
 11. Bob Marley
 12. Beach Boys
 13. Buddy Holly
 14. Led Zeppelin
 15. Stevie Wonder
 16. Sam Cooke
 17. Muddy Waters
 18. Marvin Gaye
 19. The Velvet Underground
 20. Bo Diddley
 21. Otis Reading
 22. U2
 23. Bruce Springsteen
 24. Jerry Lee Lewis
 25. Fats Domino
 26. The Ramones
 27. Prince
 28. The Clash
 29. The Who
 30. Nirvana
 31. Johnny Cash
 32. Smokey Robinson and the Miracles
 33. The Everly Brothers
 34. Neil Young
 35. Michael Jackson
 36. Madonna
 37. Roy Orbison
 38. John Lennon
 39. David Bowie
 40. Simon and Garfunkel
 41. The Doors
 42. Van Morrison
 43. Sly and the Family Stone
 44. Public Enemy
 45. The Byrds
 46. Janis Joplin
 47. Patti Smith
 48. Run-DMC
 49. Elton John
 50. The Band
 51. Pink Floyd
 52. Queen
 53. The Allman Brothers Band
 54. Howlin’ Wolf
 55. Eric Clapton
 56. Dr. Dre
 57. Grateful Dead
 58. Parliament and Funkadelic
 59. Aerosmith
 60. The Sex Pistols
 61. Metallica
 62. Joni Mitchell
 63. Tina Turner
 64. Phil Spector
 65. The Kinks
 66. Al Green
 67. Cream
 68. The Temptations
 69. Jackie Wilson
 70. The Police
 71. Frank Zappa
 72. AC/DC
 73. Radiohead
 74. Hank Williams
 75. Eagles
 76. The Shirelles
 77. Beastie Boys
 78. The Stooges
 79 The Four Tops
 80. Elvis Costello
 81. The Drifters
 82. Creedence Clearwater Revival
 83. Eminem
 84. James Taylor
 85. Black Sabbath
 86. Tupac Shakur
 87. Gram Parsons
 88. Jay-Z
 89. The Yardbirds
 90. Carlos Santana
 91. Tom Petty
 92. Guns n’ Roses
 93. Booker T. and the MGs
 94. Nine Inch Nails
 95. Lynyrd Skynyrd
 96. Diana Ross and the Supremes
 97. R.E.M.
 98. Curtis Mayfield
 99. Carl Perkins
 100. Talking Heads

2014年1月3日金曜日

PICTURES AT AN EXHIBITIONー展覧会の絵 ( EMERSON, LAKE & PALMER )

 
PICTURES AT AN EXHIBITION ( E,L&P ) / 1971年11月発売



 
EMERSON, LAKE & PALMER


EMERSON, LAKE & PALMER ( ELP ) は Keith Emerson (Key), Greg Lake (Bass), Carl Palmer (Drum) の3人が結成した progressive rock に分類されるイギリスのバンドです。彼らが1970~71年にかけて EMERSON LAKE&PALMER, TARKUS という2枚のアルバムを発表した後に、1971年末に発表したのが ライブ盤であるこの PICTURES AT AN EXHIBITION(展覧会の絵)です。

ロック・バンドが成立するためには ふつう 3 pieces つまり ギター、ベース、ドラムの3人が最低必要とされています。ところが このバンドにはギター・プレーヤーが存在せず(Lake が時々アコースティックギターを弾いていますが)、代わりにキーボード・プレーヤーが入ってキーボード、ベース、ドラムの 3 pieces 構成となっています。つまり ジャズ・バンド スタイルです。この時代のロックは派手なギター・リフを武器にギター、ベース、ドラムの達人が戦いを繰り広げるというのが常道で ロック・ギターの歪んだ音によって得られる「破壊的パワー」は必須のものでした。ギター不在のロックバンドで当時成功を収めたのはこのバンド以外には思い浮かびません。それくらいロック・バンドにとってギター・プレーヤーというのは重要な存在だったのです。

ギター不在の場合、必然的にキーボードがメロディー、ソロ、ハーモニー等のサウンドの上層部全般を担う必要が出てきますが ELP の場合、キーボードのKeith Emerson が卓越した技量でムーグ・シンセサイザーやハモンドオルガンを演奏してこの役割を果たし、さらにベースのGreg Lake がワウやファズ・トーンをかけた目立つベース・ラインやベース・ソロを弾くことでギター・パートを補い、そしてCarl Palmer の著しく手数が多く 歯切れがよいドラムのおかげでギターがあるのと同じ迫力の演奏を行っています。

Keith Emerson の最大の功績はムーグ(正確にはモーグと発音)・シンセサイザー(Moog Synthesizer)の魅力を世界中に知らしめ、その発展の立役者となったことです。それ以前にもTHE BEATLES が1969年発売のアルバムABBEY ROAD の中でムーグ・シンセサイザーを使用して知名度を高めましたが、Keith Emersonは さらにムーグ・シンセサイザーが楽器として無限の可能性を秘めていることに気付いていたのです。彼があそこまで使用していなかったら楽器メーカーも開発しなかったかもしれません。

ムーグ・シンセサイザーは ELP の代名詞とまで言われていますが、演奏の主役はdistortion を効かせたハモンド・オルガンとピアノで、 クラシックとジャズからの影響を多く受けた Keith Emerson のプレイは当時のロック界では天才と評価され、要所要所で聴かせてくれるシンセサイザーの音色は当時のprogressive rock に大きな影響を与えたと言われています。

このアルバムの原曲は19世紀のロシアの作曲家ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」です。このELP バージョンは管弦楽用に Maurice Ravel が編曲したバージョンを手本にしています。但し、そっくりそのままコピーするのではなく、組曲の中からの抜粋でありオリジナル曲を編入したり、新たに歌詞を加えたりしています。

アルバムの始まりはKeith Emerson のハモンド・オルガンがロック色を強く押し出す有名な「Promenade-プロムナード」です。この中では舞台となった Newcastle City Hall に1928年に設置されたHarrison & Harrison pipe organ も使用されて荘厳な雰囲気を創り出しています。「The Gnome-こびと」を経て再度「Promenade」。そしてGreg Lake のオリジナルとなる静かで落ち着いた曲「The Sage-賢人」、ここではLakeのすばらしいアコースティック・ギターに乗って彼の力強いボーカルが聴けます。このあたりは Lake がかつて在籍したKING CRIMSONが思い出させられます。そして静けさの中に突然シンセサイザーの甲高い音が響き渡るというEmerson の天才的な演奏が展開する「Blues Variation」が始まります。Lake のベースとPalmer の力強いドラムが絡み合い 完全なロックです。
そして 再々度「Promenade」が始まります。Carl Palmer のドラムが素晴らしく 一番迫力のある「Promenade」です。続いて「The Hut of Baba Yaga-バーバヤーガの小屋」 「The Curse of Baba Yaga-バーバヤーガの呪い」ですが、クラシックを感じさせるものはあまりなく 完全なロックと言ってもよく、シンセサイザーとベースとドラムの競演です。
最後のハイラ イトが「The Great Gates of Kiev-キエフの大門」です。Lakeの力強いボーカルに加えてPalmer のドラムがこの大作を極限まで盛り上げています。

このライブの模様は1972年10月8日のNHK Young Music Show で放送され、Keith  Emersonがナイフをオルガンに突き立てるシーンが有名になりました。キーボードにナイフを突き立てるという演出(鍵盤を押しっぱなしの状態にして、手を離しても音を出すことができる)は、Keith Emerson 独特のステージ・アクションとなりました。

アンコールは「Nutrocker」でTchaikovsky の「くるみ割り人形」の1曲である「行進曲」をロックにアレンジしたものです。歯切れ良いKeith Emerson のキーボードが冴えわたるすばらしい演奏です。日本ではこのアルバムからこの曲(A)とキエフの大門(B)がシングルカットされました。

EMERSON, LAKE & PALMER はKING CRIMSON, YES, PINK FLOYD と並んで「プログレ四天王」と呼ばれていました。これらのバンドに共通するのは圧倒的なそ演奏能力の高さで 演奏の完璧さは時に天才的と言っても良いほどです。そのような甲乙つけがたいグループの中にあってクラシック音楽を独自の解釈でロック(progressive)にアレンジした彼らの底力を反映したのが「PICTURES AT AN EXHIBITION-展覧会の絵」という名盤だと思われます。





 
オルガンの上に飛び乗りナイフを突き立てるKeith Emerson